こちらエミーラ通信所

ポストアポカリプスSF百合ファンタジー「明ける世界の夢見る機械」公式広報ブログにして壕野一廻個人雑記帳

読書記録「地下水と地形の科学 水文学入門」

地学というものには憧れと敬遠の気持ちの両方がある。普段踏みしめている大地がどのようにして成り立っているのかを理解できたら楽しかろうと思うし、創作の種にもなる。その反面、説明を聞いていても「なんとなくわかるが……」みたいな気持ちになってしまい、きちんと理解できた気がしないというのも正直なところ。多分、認知のモデルをきちんと構築できていないのだと思う。

そんな中Kindleのセールで見かけたのがこの本で、専門家がきちんと一般向けに書いた本というのはとてもよい。基礎をしっかり書いてくれているはずなので、何かしら得るものがあるのではないかと思い、読んでみたのでした。

感想

黒部川流域と東京のケーススタディを通じて専門家が基礎的な事実を積み上げて気付くと豊かな知見が広がっているという雰囲気の本で、とても楽しみながら読めた。 先にお断りしておくと、これで水文学完全に理解したわ、というわけにはいかず、特に実データを元にした議論の中にはうまくデータを呑み込めなかった部分も散見されます。これは自分の基礎知識が足りていないためであろう……*1。 とはいえ何も理解できず得るところがなかった、という訳では全くなくて、地下水の動きは結局ポテンシャルによって決定されるという説明には大学でやった流体工学の知識が接続されたようで嬉しかったです。

筆者の書きぶりによれば幾つかの記述については少々論争的な部分を扱っているようでしたが、そうした部分に関してはきちんと留保をつけ、かつあまり派手に宣伝はしない、という部分にも配慮を感じました。

*1:ということにしておけばあまり自分のプライドを傷つけずに済むだけだろう、という批判は甘んじて受けます。多分事実なので

読書記録「近世欧州軍事史備忘録 巻3 Pike and Shotの時代:歩兵の基礎」

夏コミお疲れ様でした。お陰様で弊サークルも盛況のうちに楽しく終えることができました。

戦利品を読み始めていまして、折角なのでここに記録を残してみたいと思います。

近世欧州軍事史備忘録 巻3 Pike and Shotの時代:歩兵の基礎

本の概要

本書は、Pike and Shotの時代と言われる長槍兵と銃兵が戦場の主役だった時代の歩兵戦の実相について明らかにしようとすもので、この目的のために以下の三つのセクションから構成されています。

  • 17世紀に著された民兵向けの訓練教本である「招集指図」の翻訳
  • 現代における銃剣突撃にあたる長槍兵の突進「Push of Pike」が具体的のどのような形で行われたかについての論考
  • この時代に試みられた射撃戦術の紹介

感想

興味深く感じたのは以下の部分でした

陣形の組み替えにあたっては以下のような単純な号令とそのパラメータによって兵を動かしていたこと

  • 回れ右
  • 右方、前へ倍列
  • 各列、右回りへ反転行進
  • 右方へ旋回*1

回れ、倍列、反転行進、旋回の組み合わせによって陣形の形を変えていたそうで、これは単純な関数の組み合わせによって目的を達するというプログラミング的な雰囲気を感じます。三体星人みがありますね。

縦深の深い陣形において後列が果たす役割は主に精神的なものであること

槍兵といえばファランクス、ファランクスと言えば密集方陣、というようなイメージがどうしても湧いてしまいます。が、「奥行きの長い陣形って後列はあんまりやることなくない?」という指摘は17世紀ごろにはされていたようです。これに対して著者は当時の記述などからいくつかの答えを出していますが、主たるものとしては背後に味方がいるという安心感があるのではないかと指摘しています。

なんとなく分厚い陣形のほうが強そうというイメージはありますが、具体的に後列がどのような役割を果たすのだろう? というのはわかったつもりでわかっていなかったので、得心がいきました。本書によると、古代の戦いにおいては前後の兵が入れ替わって体力を温存していた可能性が指摘されているとのことで、古代では後列にもっと積極的な意義があったのかもしれないですね。そうでないと斜線陣の意義がなくなってしまいそう。

最前列の兵は一番装備が優良であったこと

これ、素朴な感覚として「最前列に強力な防具を持たせたら強そうだけどやってなかったのかな~」という気持ちがあったんですが、実際やってたんですね。全員が同じ装備を着けている軍隊というもの自体が近代の産物なのだから、兵の装備がばらついているのは自然なこと*2で、その中でも最前列に良いもの持たせてやれ、というのはそれはそうという感があります。

「音を立てる軍隊」に対するイメージが時代によって異なること

私語をせず粛々と展開する軍隊と、敵を囃し立てる軍隊。どちらも軍隊の一イメージです。どちらが好ましいと見なされるかは、時代によって変化があるという話は興味深かったです。本書が取り扱う時代は近代化に向かいつつある時代であったので、音を立てて相手を威嚇する、というようなやり方は熱意が空回りしている若い指揮官がやりがちな誤り、というような扱いであったことが伺えました。

射撃戦術の変遷を知ることができたこと

連続射撃ができない上に射程も短い前装銃をどう運用するかという工夫の歴史を知ることができました。いわゆる「三段撃ち」みたいなものもいろいろやり方のバリエーションがあって、それぞれ利点と欠点がある。最終的に辿り着いたところは現代のFire and Movementに類するものであったというのが興味深かったです。

騎兵は必ずしも攻撃における主兵ではなかったこと

現代から古代までを見ると、ヘタイロイ、騎士、ユサール、戦車、みたいな感じで騎兵とは攻撃の主力であり、地歩を維持する歩兵と組み合わせて云々、みたいな理解をしてしまいそうになりますが、近世において騎兵の攻撃における役割は限定的であったというように読み取れたのが意外でした。この時代、突撃兵科としては長槍兵があり、その突進によって敵を後退せしめていたとのこと。

この辺りは自分の通史的理解が足りていない感がありますが、どうしてこうなったのかは気になりますね。テルシオなどの時代でもありますし、要は歩兵の防御能力が騎兵の攻撃能力を圧倒してしまった、というような第一次大戦的状況だったんでしょうか。

まとめ

通史的な理解から個別的な理解まで広く理解を深めることができてよい読書体験でした。他にも同じサークルの本を買っているので、引き続き読んでみたいです。

書誌情報

booth.pm

  • 題名: 近世欧州軍事史備忘録 巻3 Pike and Shotの時代:歩兵の基礎
  • 発行: 旗代屋
  • 著者: 旗代大田
  • 発行日: 2021年12月31日

*1:回れ右は陣形をそのままに個々の兵が右を向くが、旋回は陣形全体が右へ向きを変える

*2:ただし、長槍の長さについては厳しい統制があったそうです。楽をするために切り詰める奴がそれなりにいたらしいですが…………

夏コミ新刊のお知らせ

ご無沙汰していました。夏コミに関するお知らせです。

新刊情報

お品書き

新刊「ノイズのなぎさで」はコミケ第100回を記念し、ボイスドラマや音楽まで付いた豪華仕様となっています。まっさらな状態から生み出された人工知性体の目覚めを表現するには文章では難しい、けれど、音という要素を加えたならば完璧に表現しきれるのではないか。そんな考えから生まれた本作をどうかお手にとって頂ければと思います。 作画は伊月朱さん、作曲・編曲はRD-Soundsさん、そして歌唱は中恵光城さんにやっていただきました。難しい仕様を実現してくださった皆さんにこの場を借りて深く御礼申し上げます。一人でも欠けたら実現しなかった作品です。 ボイスドラマ部分のPVを公開中ですのでどうぞご覧ください。

PV制作にあたってはAdobe AfterEffectsを一から勉強しました。いろいろ教えて頂いた方々にもここでお礼させてください。


www.youtube.com

(近日中に音楽部分のPVも公開します!どうかご期待ください!)

委託情報

最近の感染状況を考えると、もちろんコミケに参加できない方も大勢いらっしゃると思います。弊サークルも感染対策を厳にして臨む所存ですが、それはそれとしてメロンブックスさんで委託も行いますのでどうぞこちらもご活用くださいませ。本文サンプルもこちらにございます。

頒布情報

とき・ところ

新刊頒布形態

  • 判型: A5正方形
  • 頒価: 1,500円
  • 内容
    • 冊子(小説・歌詞)
    • DLカード

関係者のコミケ参加情報

(敬称略)

伊月朱さん

日曜東ヌ-17b「Redcap」で参加されるとのこと。秘封本、楽しみすぎる……!

RD-Soundsさん

日曜東シ-41a「凋叶棕」で東方アレンジ「記」を出されるようです。物語性のある東方アレンジと言えばこの方。楽しみにしています。

www.youtube.com

中恵光城

どうやら参加はされないご様子。ですが10月30日のM3に参加されるようです。

その他、近年は「月深ツキ」名義での活動もなさっているご様子です。先日星のカービィディスカバリーを配信されているときのテンション上がりっぷりを見ていて楽しくなりました。

www.youtube.com

おわりに

観測範囲でも感染者が増えております。どうか当日まで、そして当日も皆さん気をつけて参りましょう。こんな気を使わずに本を出したり打ち上げたりできる日が来る日を願っています。

6時間、5人、そして1万字——文藝ハッカソンに参加しました

6時間を掛け、5人で1万字の小説を書こうという催しを友人が企画していましたので参加しました。自分では絶対に書けないタイプの話が綺麗に仕上がったのがとても面白い体験だったので、今日はその報告をしていこうと思います。

参加前史

友人のDiscordで何やらワイワイやっておるなと思ったら、文藝ハッカソンやろうぜ!ということでした。文藝はわかる。ハッカソンはわかる。その二つの足し算、そういうものもあるのか……!面白そうと思った私は勇んで名乗りを上げたのでした。(日程が合わなさそうとしばらくもじもじしていたという噂がありますが、正史は「荒唐無稽な戯言」と一蹴しています)

ちなみに、この催しの元ネタになった作品があるらしく(自分は残念ながら未読)、今度読んでみたいと思っています。

comic-days.com

リモートの難しさをテクノロジーで解決しよう

6/4(土)13時には人々が続々と集まり、やってやりますかという気運が高まる。打ち合わせどうしよう?という話が出たんですが、まあ必要になったらでいいかという流れに。ですが、こういうオンラインの催しでコミュニケーションのチャネルがふわふわしているのは結構怖い!しかも時間はタイト!そう思ったので、おずおずとScrapboxというツールを提案してみました。サッと書ける代わりに構造化された情報をまとめるには向いてない、みたいなツールなので、こういう場には便利そうという感覚。その読みは実際大当たりで、めちゃくちゃ活用できました。そのときの様子はこんな感じ。

scrapbox.io

あらすじコンペティション

ネタは三題噺のお題を作ってくれるツールを用いて先頭二つを取るという方針。結果として、「ココア」と「悪夢」が選ばれました。眠れぬ夜に見る悪夢とか、接触管理アプリとか、いろいろな案が出たんですが、議論はやがて「悪夢を見るココアを売る少女」に収束。だんだんお互いの中に湧き上がってきた物語を断片的に話していそうだなという雰囲気になってきたので、一旦分かれて個別にあらすじ案を作ることにしました。自分じゃ絶対思いつかないお話が並ぶ中、最終的にはキャラクター性が優れていて構成的に分業もしやすそうなものが投票によって選ばれました。それがこちらです。

いざ本文へ

ざっと必要そうな設定を決めたら並列に本文へと取りかかっていきます。ここで誰もが疑問に思うでしょう。「物語って時系列的だから、並列にやると破綻しない?」。我々もそれは心配していて、担当の分割の仕方を工夫しました。明らかにシーンが変わるだろうという切れ目をあらかじめ議論しておいて、それによって作品を五分割したのです。そして、本文開始から1時間後くらいに一旦お互いの書いた部分に目を通してみました。意外や意外、細かい調整は必要だったけれど、大筋では綺麗にまとまっていたのです。微調整の打ち合わせをして再び我々は解散、再び作業に入りました。 このときの感覚は非常に面白くて、ここまでスムーズにキーボードを叩けたのは久しぶりだなという感覚がありました。人々と話し合うことで物語の大筋が見えていたこと、それと普段書いてないタイプの話だったので、アウトプットされてないインプットがたくさんあったのが大きいのではないだろうかと思っています。

本文がっちゃんこ

こうしてできあがった本文たち。結合して平仄を揃えようということになりました。台詞についてはキャラクターごとに一人が担当して揃えたり、自分は秘蔵の小説整形ツールを動かして全体に統一的な規則を与えたり、そうして仕上がった作品が、これだ!!

kakuyomu.jp

うーん。結構いいできばえではなかろうか?何事か偉大なことを成し遂げたという高揚感に踊らされて客観視しきれない部分はあると思いますが、少なくとも破綻は来していないと思う。小説を書く上での分業の可能性を感じた気がします。ある意味、ソシャゲなどでやられているというシナリオの高度な分業はこれの大規模化したものなのかもしれないですね。

ふり返り

よかったこと

  • リモート環境下でもうまくコミュニケーションを取る体制が作れた
  • ほぼ目標ページ数に収まっていた
  • 完成した
  • 楽しかった

課題

  • 登場人物の容姿などについては決めきれなかったため、本文中ではだいぶふわっとしてしまっている
    • 細かい設定の粒度で勝つタイプの作品を作るのは不向きな体制に感じた
    • 設定を考える人と話を考える人を分けるような垂直分業のほうがその種の作品には向いていそう
    • 今回の場合話の方向性がそちらではなかったので問題にはなっていない
  • 複数チームがあるともっと盛り上がるのではないかという議論がされた。確かにそれはそうだと思うのでやってみたい
  • あらかじめコミュニケーションのテンプレートがあると時短になりそう
    • 仕組みを作ることに夢中になって肝心の参加者がつまらない、とならないようにはしなければいけない

おわりに

楽しかった!みんなもやってみようぜ!というのと備忘とを兼ねた記事なのですが……ついでに!宣伝させてください。弊サークルが制作しておりますポストアポカリプスSF百合ファンタジー「明ける世界の夢見る機械」。この機に一度読んでみてもらえるととても嬉しい!よろしくお願いします!

emilla.space

C99参加のお知らせ

C99参加します

Q「お前また記事掲載先変えたの?」

A「Fanboxあんまり書きやすくなくてね……ごめんね……」

そういうわけで使ってみましたはてなブログ。表現力はやっぱり専門サービスだけあっては高いなという感。他の競合サービスは最近どうなってるのかしら。

閑話休題

冬コミ出ます。場所は2日目西か42b、東方・メカミリと東西で分断されているのに泣いていますが、世相がら仕方ない……。なんとかご挨拶くらい行きたいところ。 新刊情報は後日掲載しますが、タイトルだけ。「バイナリの置き手紙」になります。いつもの「あけゆめ」番外編になります。面白いので読んでね。入稿はしているので、重大な問題が起こらなければ……出せるはず……。

こちらでは初めてなので「あけゆめ」ご紹介

ポストアポカリプスSF百合ファンタジー「明ける世界の夢見る機械」の略称です。この時代としては結構恵まれた生い立ちである主人公のクロエが、ひょんなことから古代の「全自律無人機」であるアトミールと行動を共にすることになる物語になります。詳細は特設サイトへ。

emilla.space

大変ありがたいことにウサホリさんによるフルボイスアニメPVも作って頂いております。声は佐藤あずささんと中恵光城さん。楽曲はRDさんです。何度見ても凄い。ホントに……自分の……作品の……キャラが……動いて……喋ってる……。

www.youtube.com

おわりに

本日は簡単なご挨拶でした。近いうちに頒布物の詳報など出せると思います。